東京大学政策評価研究教育センター

CREPEFR-8 育休を延ばせば女性は働きやすく・生みやすくなるのか?

山口慎太郎(東京大学)


画像提供:freeangle / PIXTA(ピクスタ)

Executive Summary

Background(問題意識)
  • 女性の就業促進および出生率の向上を目的とした子ども・子育て政策の重要な手段として、育児休業(育休)制度がある。日本の公的な育休制度は、仕事復帰が保証された原則1年間の休業と、期間中の育児休業給付金の支給を規定している。
  • 本論文では、この育休制度が女性の就労・出産に与える影響に焦点を当て、将来の期間延長などの制度変更がどのような効果をもたらすかを予測・分析する。
  • 本論文はさまざまな政策効果の予測を行っているが、最も注目すべきは育休期間が1年から3年に延長された場合の効果である。「1年間の育休制度導入には女性就業促進の効果が見られるものの、3年間に延長しても就業・出産ともにほとんど効果がない」という予測結果が示される。

  • Findings(主な結果)
    図 育休期間延長の政策シミュレーション結果(就業促進と育休取得)

    (注) 育休制度無し、1年育休、3年育休別のシミュレーション結果。グラフ (b) で育休制度無しの場合に取得確率が0でないのは、法制度とは関係なく自主的に育休を提供している企業が存在するため。
    (出所) Yamaguchi (2019), Figure 3より作成。

    (1) シミュレーションの結果、育休制度の導入(期間0年→1年)は大きな就業促進効果が見られた一方で、延長(期間1年→3年)しても就業促進への効果はほとんど見られない(上図参照)。
    (2) 給付金については、給付率の変動による就業への影響は小さく、育休制度全体が出生にもたらす効果もほとんどないという予測が示された。

    Interpretation(解釈、示唆)
  • 女性の就業・出産・育休取得の意思決定を規定する金銭的要因や心理的要因(幼い子を預けて出勤する抵抗感、育休取得の際の調整や人間関係など)、離職中の職務遂行技能の衰えなどをふまえると、まず1歳未満の子を預けて仕事に出ることの金銭的・心理的コストが非常に大きい一方で、1歳以上ではコストが急減するため、1年間の育休に効果が見られたと考えられる。
  • また、日本の労働市場では離職後の再就職が難しい点なども、育休政策のメリットを強めている。加えて、長期間離職すると技能の低下がより大きくなるなどのデメリットも考慮すると、延長により育休のマイナス面が強く現れるようになるため、効果が見られなかったと考えられる。
  • 今後は、育休制度の強化よりも保育サービスの供給充実を通じた育児と就労を両立できるサポートがより重要となるだろう。

  • Methods & Data(分析方法とデータ)
  • 本論文で用いたデータは、家計経済研究所が実施してきた「消費生活に関するパネル調査」という若年女性の生活実態を追跡してきた調査の1993年から2011年までのデータである。
  • これを用いて、既卒・非自営業の既婚女性を対象としてパネルデータを構築し、「構造推定」と呼ばれる手法に基づく、仮想的な政策実施の効果をシミュレーションによって予測する。
  • 構造推定では、女性の就業・出産・育休取得の意思決定を経済理論に基づいてモデル化し、データから現時点までの政策変化への反応度を測定する。そして、理論とデータに基づく反応度をもとに、「もしこれが実施されたら」という仮想的な政策が行われたとして、将来起こりうる結果をシミュレーションする。
  • これにより、単純な予測よりもはるかに精密で、理論的・現実的な根拠に基づく予測結果を導くことができる。

  • 背 景

    女性活躍のための育児休業政策

    論文プレビュー

    育休を延ばせば女性は働きやすく・生みやすくなるのか?

    論文へのリンク

    Shintaro Yamaguchi (2019) "Effects of Parental Leave Policies on Female Career and Fertility Choices," Quantitative Economics, forthcoming.

    記事作成:尾崎大輔(日本評論社)