東京大学政策評価研究教育センター

センター概要

センター設立の目的

 日本には重大な社会・経済問題が山積している。少子高齢化、財政赤字、格差拡大、巨大災害、産業構造変化など、枚挙にいとまがない。どのような政策が有効か。現状を認識するためどのようなデータが必要か。制度・政策を正しく評価し未来に役立てるためどのような仕組みが必要か。
問題解決の中軸をなすこれらの問いは、「ヒト・カネ・モノ・情報」の相互依存、効率と公正、ガバナンスといった、経済学の基本概念に照らして検討されるべきものばかりである。財政がひっ迫する中で、どのような子育て支援・介護支援を行い少子化の進行を回避しつつ労働力を確保するか、どのように高齢者の労働参加を確保するか、教育機会の平等を確保し格差の拡大を阻止するか、医療費用・介護費用の増大を抑えつつ質の高い医療・介護を幅広い国民が家族と連携しながら享受できる仕組みをいかに維持するか、高齢化の進む地方での生活環境をどのように発展させるかなど、これからの日本に必須な制度改革は、そのどれもが、実証結果に基づく政策形成(Evidence Based Policy Making (EBPM))に基づく必要があり、他の学問分野と協働しつつ経済学の英知を結集することによって解決が試みられる必要がある課題である。
EBPMの根幹をなす政策評価を効果的に行うためには政策評価を行う主体が、高い技術を有すると同時に政策実施主体から独立していることが必要である。
これら二つの条件のどちらかが満たされていなければ、実証結果は信頼性を失う。これら二つの条件を満たす組織として、東京大学大学院経済学研究科は、政策評価研究教育センターを他部局と連携し設立し、実証分析に基づく政策形成に関する研究及び実践と実践を通した教育を開始する。
当センターが分析対象とする「政策」とは、消費税率変更や大学学費無償化といった量的なものだけでなく、税体系の変更やオークション制度の導入といった制度変更や新たな制度の導入をも含む幅広いものである。また、特定の政策についてその政策目標を達成したかを事後的に評価するという通常の政策評価にとどまることなく、個別の政策がその政策目標とする事象以外の幅広い社会経済事象にどのような影響を与えるかを分析する。同時に特定の政策が達成すべき政策目標を軸として、様々な政策を幅広く理論的・実証的に吟味し、ある政策目標を達成する為にはどのような政策がどのような条件の下で有効かに関する知見を蓄積する。このようにして当センターは狭い意味での政策評価にとどまらない、包括的な政策評価を志向する。
この目標を達成するために政府・自治体・民間とも協働することでデータを改善・整備し、また経済学研究科ならびに連携部局の持つ人的資源を生かし、質の高い実証・理論分析をもとに有効な政策評価ができることを実例で示すとともに、実証・理論分析を行う高い技能を持った人材を育成し、日本社会に実証結果に基づく政策形成を根付かせていくことを目標とする。同時に政策評価を効果的に行うために必要なデータの整備・管理ならびに研究手法の開発にも取り組み、政策評価の質的向上に向けて国際的な貢献を行う。
本研究センターでは次の3年間にわたり、

  • 少子高齢化
  • 財政赤字
  • 教育
  • 労働環境
  • 災害対策
  • 情報・通信・社会インフラのデザイン

をテーマとして政策評価、制度設計に関する研究を進める。

センターで行う事業の概要

研究事業

  • センター所属の研究者が政策評価の研究を進める。
  • 内外の研究者の招へいを通じ共同研究を推進する。
  • 科研費申請・運営などの支援を行う。
  • 政策評価研究教育センターディスカッションペーパーを刊行する。
  • 政策担当部局との意見交換を行い、研究テーマの発掘、研究結果の現場へのフィードバックを行う。
  • 中央官庁・地方自治体との協働による多様なデータ整備を進め、それを用いた研究を推進する。
  • 上記研究を推進するにあたり必要な守秘義務のあるデータの管理を行う。

教育事業

  • 当センターの対象とする分野の一流の研究者を招へいし、集中講義を行ってもらう。この際、大学院生の発表機会を同時に作り、大学院生が自ら行う研究について、招へい研究者から意見をもらえる機会を作る。
  • 優秀な大学院生を学生奨励金を支給することで援助する。
  • 所属研究者が進める政策評価研究を学部生・大学院生が補助することを通じて実地教育を施す。
  • 中央官庁・地方自治体の職員との共同研究を通じて訓練機会を与える。

センターで行う研究の概要

2017年10月現在、センターで行うことを予定している研究の一部を例示すると以下のとおりである。

  • 最低賃金の労働市場に与える影響の総合的評価
  • 保育所政策の評価
  • 高齢者に対する労働市場政策の評価
  • 雇用主・労働者接合データを用いた企業行動の評価

共同事業実績

2017年11月現在、センターの行う共同事業は以下の通りである。

  • 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当) 経済・財政一体改革(生活保護受給者への就労支援施策)に係るEBPM推進の取組について(試行的分析)
  • 総務省(統計研究研修所) 公的統計の改善及び発達ならびに統計リテラシーの向上