東京大学政策評価研究教育センター

CREPEFR-7 保育所は幼児教育の場として子どもと親にどのような影響を及ぼすか?

山口慎太郎(東京大学)・朝井友紀子(東京大学)・神林龍(一橋大学)


画像提供:IYO / PIXTA(ピクスタ)

Executive Summary

Background(問題意識)
これまで日本で進められてきた子ども・子育て政策は、少子化への対応が重視されるとともに、母親就業率の向上と出生率の引き上げが目指され、保育所利用の拡充が進められてきた。しかし、実際に保育所に通うようになる子どもにも、この政策の影響が及ぶ可能性がある。また、子どもを保育所に通わせるようになった母親の行動やストレス等の精神状態にも何らかの影響があるとも考えられる。また、保育所は親の就労支援だけでなく、幼児教育の場としての役割も果たすと考えられる。保育政策を進めるにあたって、親の就労環境だけでなく、子どもの発達状態や親の行動・精神状態にどのような効果がもたらされるかは重要な要素として考慮されるべきである。こうした問題意識のもとで、家計レベルのデータを用い、各家庭の特徴の違いをふまえたうえで、保育所通いが子ども、親の双方に及ぼす影響を分析した。

Methods & Data(分析方法とデータ)
本論文では、各家庭レベルの厚生労働省による大規模調査、「21世紀出生児縦断調査」の個票データを用いた。これは生後半年以降の子どもの発達状態や家庭環境、両親の就業状態、そして保育園の利用状況などについて調査したデータである。これには、子どもの発達状態や親のしつけの方法、ストレス状態に関する質問への解答結果も盛り込まれている。このデータを用いて、子どもの発達状態として子どもの「言語行動」、「多動性傾向」、「攻撃性傾向」を定量化した。また親の家庭での「しつけの質」や、「子育てからくるストレス」、「子育てからくる幸福感」を定量化した。保育所通いがこれらの指標にもたらす効果を、母親の学歴などの家庭ごとに異なる要因による影響も考慮して分析した。

Findings(主な結果)
子どもの発達状態の指標では、保育所通いによって、特に社会・経済的に恵まれない家庭において多動性傾向、攻撃性傾向といった情緒的な能力が大きく改善されるという結果が見出された。加えて、母親のしつけの質や精神状態についても、恵まれない家庭において大きな改善効果が見られた。保育所通いの、子どもへの効果、母親への効果ともに、母親の学歴が低い場合、すなわち社会・経済的に恵まれない家庭の場合に大きくなる可能性が示唆された。

Interpretation(解釈、示唆)
保育所通いの効果は恵まれない家庭が大きな効果を享受できることをふまえると、政策効果をより高めるためにも、そうした家庭が利用しやすくなるような対応が望ましいことが示唆される。一方で、現行の保育所入所時の選考基準では両親がフルタイム正社員として働く経済的に恵まれた家庭が有利になるため、政策効果の発揮を阻害している可能性が示唆される。保育所が幼児教育の場として機能しうることも考慮して、より望ましい制度設計を行っていくことが重要となる。

背 景

子ども・子育て政策の効果はどのように評価できるのか?

論文プレビュー

保育所は幼児教育の場として子どもと親にどのような影響を及ぼすか?

論文へのリンク

Shintaro Yamaguchi, Yukiko Asai, Ryo Kambayashi (2018b), "How Does Early Childcare Enrollment Affect Children, Parents, and Their Interactions?," Labour Economics, 55: Pages 56-71.

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