東京大学政策評価研究教育センター

CREPEFR-6 保育所拡充の就業支援が効果的なのはどんな家庭の母親か?

山口慎太郎(東京大学)・朝井友紀子(東京大学)・神林龍(一橋大学)


画像提供:makaron* / PIXTA(ピクスタ)

Executive Summary

Background(問題意識)
日本では、女性の就業率向上や出生率の上昇を主な目的として子ども・子育て政策が進められてきた。そこでは、保育所整備が女性就業率の向上につながることが前提とされていることが多いにもかかわらず、データから因果関係を実証した分析があまり見られなかった。これを問題視してきた著者らは、「国勢調査」による都道府県レベルの集計データを用いた自らの先行研究に続き、家庭レベルのデータを用いて、2000年代前半の政策がもたらした女性就業への効果を導出した。本論文では、各家庭の置かれた環境による異質性もふまえて保育所整備の効果が分析されている。また、各家庭の保育所利用可能性を大きく左右する入所時の選考ルールの影響も考察する。

Methods & Data(分析方法とデータ)
本論文では、各家庭レベルの厚生労働省による大規模調査、「21世紀出生児縦断調査」の個票データを用いた。これは生後半年以降の子どもの発達状態や家庭環境、両親の就業状態、そして保育園の利用状況などについて調査したデータである。分析枠組みは、政策が実施された前後の母親就業率の変化の差と、さまざまな要因から都道府県ごとに異なる実際の保育所整備の進行具合の差という2軸の差を用いた「差の差推定」という考え方を用いた。これにより、保育所整備が大きく進んだ地域とほとんど進まなかった地域ごとに政策による母親就業率の伸びを分析することで、保育所利用の拡大が母親の就業率の伸びにどのような効果をもたらしたかを導出した。

Findings(主な結果)
保育所利用の拡充がもたらす効果は、家計の経済状態や家庭環境、両親の就業状態等々、個別に直面する状況に応じて異なってくることが示唆された。まずより幼い子どもを持つ家庭の方が、保育所整備による母親就業率の向上効果が大きかった。加えて、母親の学歴が相対的に低い場合に就業促進効果が高く、調査時点でまだ保育所を利用していない家庭のほうがその時点ですでに利用している家庭よりも母親の就業促進効果が大きいことが示唆された。ここから、比較的経済的に恵まれない家庭の方が保育所利用の効果が大きいと考察されている。その一方で、現行の保育所入所選考基準のもとでは両親がフルタイムで正社員として働いている場合など、経済的に恵まれた家庭の子どもが優先されることが高いことも指摘した。

Interpretation(解釈、示唆)
家庭レベルのデータにより、保育所整備の効果における家計ごとの異質性を反映させた分析を行うことができた。このことは政策評価を行ううえで非常に重要な要素である。また、保育所整備の推進効果を最大限発揮するためには、就業支援効果の大きい経済的に恵まれない家計を優遇するような検討が必要となりうるとともに、現行の入所基準が政策効果を阻害している可能性も指摘されている。緻密な政策評価分析と制度・事業の改善のサイクルを回すことが重要だ。

背 景

子ども・子育て政策の効果はどのように評価できるのか?

論文プレビュー

保育所拡充の就業支援が効果的なのはどんな家庭の母親か?

論文へのリンク

Shintaro Yamaguchi, Yukiko Asai and Ryo Kambayashi (2018a), "Effects of Subsidized Childcare on Mothers’ Labor Supply under a Rationing Mechanism," Labour Economics, 55: Pages 1-17.

CREPEフロンティアレポートシリーズはCREPE編集部が論文の著者へのインタビューをもとにまとめたものです。