東京大学政策評価研究教育センター

CREPEFR-11 企業に向けた政策で高齢者就業は促進されるのか?

近藤絢子(東京大学)・重岡仁(サイモンフレイザー大学)


画像提供:ふじよ / PIXTA(ピクスタ)

Executive Summary

Background(問題意識)
  • 高齢化の進展とともに、公的年金をはじめとする社会保障財政への懸念と、生産年齢人口の減少による人手不足への対応に注目が集まっている。
  • 政府もさまざまな対応を講じてきた。2001年には、公的年金の支給開始年齢引き上げ(厚生・共済年金の定額部分)をスタートさせ、それとともに高齢者の就業促進にも力を入れてきた。
  • 本論文は、特に2006年施行の改正高年齢者雇用安定法(高年法)による高齢者の雇用確保措置(年金支給開始年齢までの定年年齢引き上げ、継続雇用、あるいは定年廃止)の義務化に着目し、この政策が当時の60代前半の労働者の就業促進に与えた効果を分析した。

  • Methods & Data(分析方法とデータ)
  • 分析では、段階的に引き上げられる年金支給開始年齢と雇用確保措置義務年齢のギャップを利用し、後者だけが引き上げられたケース、両者が同時に引き上げられたケース、前者だけが引き上げられたケースについてそれぞれ雇用者の就業率の変化を推定した。
  • これにより、企業等(労働需要側)に影響を与える改正高年法の効果だけでなく、労働者(労働供給側)への影響、およびそれらの相乗効果も検証した。
  • 用いたデータは、総務省統計局が毎月実施する「労働力調査」である。全国レベルで継続的に行われている調査で、サンプルサイズが非常に大きく、60代前半周辺という限られた人々を対象とした本論文の分析に好適であった。

  • Findings(主な結果)
    図 2006年度改正高年法の就業促進効果

    (出所) Kondo and Shigeoka (2017)、Table 4より。

  • 2005年に60歳になる1945年度生まれ世代と、2006年に60歳になる46年度度生まれ世代に着目し、改正高年法の就業促進効果を考える。後者だけが改正法による義務化の対象だ。
  • 図の一番左の棒グラフは、60代前半の男性の人口全体に占める雇用者の割合が、46年度生まれ世代の方が45年度生まれ世代と比べて高いことを示している。また、その効果は大企業でより大きいことも明らかとなった。
  • さらに、雇用確保措置の義務年齢だけが引き上げられた場合よりも、年金支給開始年齢の引き上げも同時に行われた場合の方が、就業促進効果が大きかったこともわかった。

  • Interpretation(解釈、示唆)
  • 高齢者の就業促進効果が見られた背景には、同時期に企業側に潜在的な労働需要の存在が指摘できる。若年人口の減少が顕在化し、団塊の世代が60歳を超える時期でもあったからだ。当時の法改正も、そうした状況をふまえた対応でもあった。
  • 現在政府は、「70歳までの就業機会の確保に向けた法改正」を目指すと発表し(未来投資会議、2019年5月15日)、議論を進めているが、この年代に対する潜在的な労働需要の有無は明らかではないため、企業への無理な介入には慎重になるべきだ。
  • 定年や継続雇用制度は、年功型の賃金カーブと深く関係する。さらなる高齢者雇用の義務化などよりも、企業側の賃金カーブが状況に合うように変化していくことが重要だ。
  • 本論文の結果は、今後日本と同様に高齢化に直面する世界各国、またアジア諸国にとっても有益だ。特に、労働需要側と労働供給側への政策的介入を区別してそれぞれの就業促進効果を検証したことで、双方に目配りをした政策を検討するための指針となるだろう。

  • 背 景

    公的年金への懸念と高齢者の就業促進

    論文プレビュー

    企業に向けた政策で高齢者就業は促進されるのか?

    論文へのリンク

    Ayako Kondo and Hitoshi Shigeoka (2017) "The Effectiveness of Demand-side Government Intervention to Promote Elderly Employment: Evidence from Japan," Industrial and Labor Relations Review, 70(4): 1008-1026.

    記事作成:尾崎大輔(日本評論社)