東京大学政策評価研究教育センター

CREPEFR-1 ライフサイクルを通した医療費の定量的評価

著者:深井太洋(東京大学)・市村英彦(東京大学)・金澤匡剛(東京大学)


画像提供:8x10 / PIXTA(ピクスタ)

Executive Summary

Background(問題意識)
生まれてから亡くなるまでの間、いつどの程度のお金が医療に必要となるかは、自身はもちろん、家族にとっても重要な問題だ。また保険会社や、社会保障制度を運営する政府にとっても、どんな人がどの程度の医療費を支払うリスクに直面しているかをデータに基づいて評価できれば、商品・価格戦略や政策の決定現場で貴重な判断材料として役立てることができるだろう。本論文では、「人は何歳のときに、どの程度の医療費が必要となる健康リスク直面するのか、それはどの程度の期間続くのか」などを予測するための精緻な推定の方法を新たに提案した。そして、個人が生まれてから成長し、加齢とともに移り変わる健康リスクを年齢ごとにデータに基づいて捉え、実践的なインプリケーションを提示した。

Methods & Data(分析方法とデータ)
本論文では、個人がライフサイクルを通じて将来必要となる医療費を正確に予測するために、従来から用いられてきた前年の医療費データによって予測する方法に代えて、前々年のデータも追加的に用いる方法を提案した。これにより、従来は不可能だった、「以前からずっと高い医療費を支払い続けている人」と、「前年に初めて病気になり高い医療費が掛かってしまった人」を区別して分析することが可能となった。この分析のために、「JMDC Claims Database」という大規模は医療レセプトデータが用いられた。このデータは、複数年にわたって個人を追跡して分析することが可能であり、医療費に加えて、加入者の性別、年齢、所得、学歴など、個人の特徴を示すデータが含まれている。

Findings(主な結果)
前年に加えて前々年の状態も予測に組み込むことで、予測精度を向上させることができることが明らかとなった。それにより、ライフサイクルの中で高額な医療費が必要となるのはいつ頃か、特に高額な医療費が必要となる確率が高まるのは何歳からか、高額な医療費支払いが翌年以降も続く確率が年齢によってどのように変化するか、などの問いに対して実践的な示唆を得ることができた。

Interpretation(解釈、示唆)
本論文の知見は、個人が将来設計を考える際に加え、保険会社が商品・価格戦略を策定する際、政府が社会保障制度改革の議論を行う際にも有用な情報を提供できる可能性を秘めている。さらに正確に、より包括的な分析を行うためには、医療情報のデータ基盤の整備のますますの進展が望まれる。

背 景

高齢化社会と医療費ー将来のリスクに備えるために何が必要か?

論文プレビュー

ライフサイクルを通した医療費の定量的評価

論文へのリンク

"Quantifying Health Shocks over the Life Cycle" (CREPEDP-2, 2018)

記事作成:尾崎大輔(日本評論社)