東京大学政策評価研究教育センター

CREPEFR-2 福島第一原発事故による避難指定区域外の「見えざる被害」に迫る

著者:川口大司(東京大学)・行武憲史(日本大学)


画像提供:多瑠都 / PIXTA(ピクスタ)

Executive Summary

Background(問題意識)
今後の原発政策の是非やその方向性を議論するうえでも、福島第一原子力発電所の事故による被害や処理費用を包括的に明らかにすることは重要だ。被害の試算の際には、特に避難指定や賠償の対象となる地域に注目が集まることが多いが、このような大規模な事故の場合には、その直接の対象とはならない周辺地域に及ぼした影響も決して小さくはない。本論文は、そうした避難指定区域外の地域が受けた事故後の汚染の影響に着目し、汚染よる地価の下落幅を推計することを通じて、普段は光の当たりにくい同地域で原発事故の被害額の解明に挑んでいる。政府等の試算結果を補完し、より包括的に実態を明らかにする意義を持った研究である。

Methods & Data(分析方法とデータ)
分析に用いたデータは、実際の土地の取引価格が得られる国土交通省「土地総合情報システム」、土地の汚染被害の情報は文部科学省「航空機モニタリングによる空間線量率の測定結果」である。緯度経度情報を用いて汚染度合いを示す指標を地域ごとに割り振り、両者のデータを町丁目レベルで統合した。このようにして、東北・関東甲信越の16都道府県を対象とし、四半期ごとに2010年第2四半期から2012年第四半期まで(2011年第1四半期は除く)のパネルデータを構築した。地域ごとの元々の地価のばらつきをふまえて分析するために、事故の前後での価格の下落幅を被害額として推定した。また、汚染被害の甚大な地域で取引自体が消失してしまい地価のデータが得られなくなることで生じるサンプル・セレクションの・バイアスの問題に対処するために、被害額に幅を持たせた推定を行った。

Findings(主な結果)
原発事故による放射能汚染は、確かに土地価格の下落という形で被害を及ぼしていることが明らかとなった。また、人口密度の高い地域ほど、地価の下落幅が大きかったことも示された。さらに、都道府県ごとの被害額の推計値を合計し、原発事故による汚染の影響で、日本全体で1.5~3兆円程度の地価が下落したという結果を示した。

Interpretation(解釈、示唆)
避難指定や賠償の対象とならない地域であってもこれだけの規模の被害が明らかにされたことは、これらの地域への影響も決して無視することはできないということを示唆している。また、きわめて稀なケースである原発事故という事象において、福島第一原発事故における被害総額を明らかにしたという点で、本論文は貴重な分析結果を示している。今後の原発政策に関する意思決定を行ううえで、本論文の分析結果やそれを得るために工夫された分析手法は、重要な検討材料の1つとなりうるものであると言えよう。

背 景

原発事故の被害額の試算をめぐる困難

論文プレビュー

福島第一原発事故による避難指定区域外の「見えざる被害」に迫る

論文へのリンク

Daiji Kawaguchi and Norifumi Yukutake, "Estimating the Residential Land Damage of the Fukushima Nuclear Accident," Journal of Urban Economics, 99: 148-160, 2017.

CREPEフロンティアレポートシリーズはCREPE編集部が論文の著者へのインタビューをもとにまとめたものです。