東京大学政策評価研究教育センター

CREPEDP-139

Number CREPEDP-139
Publication Date March 2023
Title 「ポストコロナ時代の公的統計(4) ― 経済構造の変容と統計のカバレッジ ―」
Author 西村淸彦、肥後雅博
Abstract 企業や家計の的確な物価・景気判断や金融・財政政策の迅速な決定には、物価、賃金、国内総生産(GDP)をはじめとする、精度が高く、速報性のある経済統計が不可欠である。「ポストコロナ時代の公的統計」の第4回 (最終回)では、統計のカバレッジを巡る問題を取り上げる。サービス化・デジタル化・グローバル化の進展は、統計の捕捉漏れを拡大させ、GDPの精度を低下させる大きな脅威である。この点は各国共通の課題であるが、 さらに日本では 、企業の母集団名簿のカバレッジが十分ではなく、経済活動が適切に捕捉できていないとの問題が 1990 年代以降深刻化している。このため、サービス化・デジタル化・グローバル化に伴う新たな対応と、母集団名簿の捕捉漏れという古くからの構造問題への対処を、同時に進めていく必要がある。統計のカバレッジが十分でないことはGDPが現在過小推計されていることを意味する。GDPの過小推計幅の規模感をできる範囲で大まかに推計したところ、現時点では22~33兆円(GDPの4~6%)に達している可能性がある。そのうち、2025年末予定のSNA・2020年基準改定では、最近のカバレッジ拡大の成果が反映することで、GDPが10~13兆円程度上方修正される可能性がある。一方、残る12~20兆円の捕捉漏れ分の 計数把握には、さらなる取り組みが必要である。その際、➀ 税務情報などの行政記録情報の計数データを活用した欠測値補完の充実や ②賃金や事業所得など所得に関する税務情報を利用した分配側 GDPの推計など新たな枠組みの導入が、カバレッジ拡大には効果的と考えられる。統計関係者による新たな視点からの取り組みが期待される。
Other information Paper in Japanese (20 pages)