CREPEFR-3 コミュニティ・ユニオンにおける協調達成のメカニズム:世代重複型のくり返しゲームによる解明
著者:神取道宏(東京大学)・大林真也(青山学院大学大学)

画像提供:Bobrovee / PIXTA(ピクスタ)
Executive Summary
人々が社会において協調関係を築き、持続させるための条件を明らかにすることは、経済学の最も重要な研究テーマの1つである。本論文の主な目的は、ゲーム理論に基づいて、コミュニティ・ユニオンという特殊な労働組合の事例を丹念に読み解くことで、人々は実際にどのような理由で協調し、どのようにしてそれを維持しているのかを解明することである。
Theory & Case(理論と事例)
事例として取り上げるのは、「東京管理職ユニオン」というコミュニティ・ユニオンである。コミュニティ・ユニオンとは、個人で参加できる日本に特殊的な労働組合であり、構成員が頻繁に入れ替わるのが特徴の1つである。しかしそこでも、あるメンバーが自身の労働紛争における争議活動への支援を求め、他のメンバーがそれを助けるという行動が相互に成立している。メンバーが入れ替わるため、通常のくり返しゲームの理論が協調の条件とする、同一のプレイヤーによる長期的関係から協調達成のメカニズムを説明することはできない。そこで本論文では、「世代重複型のくり返しゲーム」という理論を用いて、次々に構成員が入れ替わるような組織で、なぜ、いかにして協調が達成されているかを分析した。
Findings(主な結果)
実地調査やインタビューを重ねた詳細な事例分析の結果、協調的な助け合いの構造は、「過去に争議活動を支援するために集まった際に出会った他のメンバーを優先的に助ける」という行動規範に基づいて各人が行動することで実現している可能性が示唆された。さらにこの行動規範は、「私的観測下のくり返しゲーム」と呼ばれる理論で提案されていた複雑な均衡概念に基づく協調達成のメカニズムと非常に近い状況であることも明らかとなった。
Further Research(さらなる研究)
本論文の分析は、インタビューを中心とする事例の調査と、理論モデルを通じた現実の吟味から得られた協調メカニズムの可能性を示唆したところで留まっており、本当に多くのメンバーがそのメカニズムに従って行動しているのかという点で確証は得られていない。そのため、1つひとつの争議活動で各メンバーが、誰を、どのように、どういう経緯で助けたかが詳細に記録されたデータを収集し、パネルデータを構築して実証分析を進めている。理論分析の結果が実証的にも支持されるか、さらには自身が協力しない場合に、他者の協力が得られる可能性がどの程度減少するかという数量的な視点での分析も進行中である。
背 景
論文プレビュー
コミュニティ・ユニオンにおける協調達成のメカニズム:世代重複型のくり返しゲームによる解明論文へのリンク
Michihiro Kandori and Shinya Obayashi, "Labor Union Members Play an OLG Repeated Game," Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 111 (Supplement 3):10802-10809, 2014.記事作成:尾崎大輔(日本評論社)