東京大学政策評価研究教育センター

CREPEFR-10 正規・非正規の間の雇用調整における格差は存在するか?――為替レートの変動を利用した分析


著者:横山泉(一橋大学)・比嘉一仁(内閣府経済社会研究所)・川口大司(東京大学)


画像提供:bee / PIXTA(ピクスタ)

Executive Summary

Background(問題意識)
景気や企業の業績が悪化して雇用を減らす必要が生じた場合、企業は正規労働者ではなく非正規労働者を減らすという非対称な調整の存在が従来から指摘されてきた。国、産業、企などさまざまなレベルのデータを用いた実証研究の蓄積があるが、本論文では、日本での雇用調整の非対称性の存在とその原因を明らかにするため、2001~12年という比較的長期間にわたる企業レベルのデータを用い、個々の企業の活動とは無関係に生じる為替レートの変動という外生的なショックを利用することで因果関係に迫る分析を行った。

Methods & Data(分析方法とデータ)
為替レートからの影響は、どの程度輸出入に依存しているかで異なる。たとえば、輸出依存度の高い企業にとって急激な円高は業績にマイナスである一方、依存度が低ければそうした影響は小さい。本論文の主な貢献は、こうした企業の異質性に着目し、時間を通じた為替レートの変動が企業の業績や、正規・非正規別に雇用に与える影響を分析した点である。輸出入、業績、雇用は経済産業省「企業活動基本調査」の個票、為替レートは国際決済銀行(BIS)のデータを用いた。また、賃金や労働時間による調整も検証するため、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を企業活動基本調査と合併して分析した。勤続年数を考慮した分析も行い、非対称な雇用調整の原因として、企業特殊的人的資本が重要であることを示した。

Findings(主な結果)
円高になると、輸出依存度の高い企業ほど売上高が低下し、非正規の雇用量を減少させるが、正社員の増減には有意な差が見られなかった。これは、2年前、1年前の自社の業績や労働者数が当年の自身の変動に与える動学的な変化も考慮したうえでの分析である。一方、正社員の賃金の低下や労働時間の増加が見られた。さらに、勤続年数が重視される産業では正規と非正規の雇用調整の非対称性は、さらに強くなることが見出された。

Interpretation(解釈、示唆)
現在は経済が好調なので、リーマン・ショック時のような非正規問題は見られない。しかし、日本の労働市場が抱える正規と非正規の二重構造の問題はそのまま残されており、一度大きなショックを受けると問題が一気に顕在化するおそれがある。問題が再び顕在化する前に二重構造を解消させる方向に舵を切るべきであり、たとえば解雇の金銭解決制度などの制度を整備することで、非正規だけが雇用の調整弁とされるような状況を改善する必要がある。さらに今後の環境変化もふまえると、正規・非正規の区分ではなく勤続年数に応じて単一的な処遇を行い、労働市場の取引を活発化・透明化していくことが重要だと考えられる。

背 景

日本型雇用における正社員と非正社員の格差

論文プレビュー

正規・非正規の間の雇用調整における格差は存在するか?――為替レートの変動を利用した分析

論文へのリンク

Izumi Yokoyama, Kazuhito Higa and Daiji Kawaguchi (2019 forthcoming) "Adjustments of Regular and Non-Regular Workers to Exogenous Shocks: Evidence from Exchange-Rate Fluctuation," Industrial and Labor Relations Review, forthcoming.

記事作成:尾崎大輔(日本評論社)